第14章 苦しさよりも※
下着越しに触れたそこは十分過ぎるくらい濡れていた。数回撫でただけで水音が響く。
『ああっ……』
下着をずらして直接触れれば、漏れる声も水音も更に大きくなっていく。
身体の反応を見れば絶頂が近いのがわかった。それなのに下を触っている手を両手で掴まれる。力こそ入ってないものの爪を立て必死に抵抗する様子。
『あ……明美が悲しむ……からだめ……っ』
絞り出された言葉に耳を疑った。思わず手を止め目を見開く。
「なぜ……」
身体は快感を求めているはず。それなのに、どうしてそこまであいつの心配をするのか……。
『だから……やめて……』
苦しそうに言うマティーニ。でも、確かな意思がこもった言葉。
……こいつには適わないのかもな。
どうにか押し切り数回イカせた。若干ではあるが落ち着いたように見える。
不本意だが別のヤツに頼むしかないだろう。そう思い電話をかけた。数コールの後、繋がったが相手は無言のまま。
「ジンか?俺だ。すまないがマティーニを引き取ってもらいたい」
「……他のヤツに言え」
「薬を盛られてな。だいぶ仕上がってるが……」
わざと煽るように言う。それでも駄目なら……バーボンかスコッチか……。
「てめぇ何もしてねえだろうな」
電話越しでもわかるくらいの殺気。マティーニは身体だけと言ったが、そうは思えないくらい深い関係らしい。
「あまりにも苦しそうだったから少し味見したがな」
本当は最後までしたかったが……なんて言葉は命が惜しいので飲み込む。
数秒の沈黙。そして伝えられた場所は有名な高級ホテル。10分少々で着きそうか。それまでこいつが耐えられるか……いや、耐えてもらわねば困る。
マティーニは車が揺れる度に小さく声を漏らす。それにため息をつくことしかできず、ハンドルを強く握った。
車がホテルの駐車場に着くと同時に見えるジンの姿。マティーニに声をかけ車を降りた。
「手を怪我している。応急処置はしたが後でちゃんと診てもらってくれ」
「……ウォッカが来たら取引した物を渡せ」
ジンはそう言って助手席の方へ歩いていく。窓越しにマティーニを見て僅かに表情が歪んだ気がした。
ジンは勢いよくドアを開け、マティーニを横抱きにした。
「詳しいことはそいつに聞いてくれ」
予想通り返事はなく、黙って歩いていく後ろ姿を見送った。