第14章 苦しさよりも※
ライside―
『……舐められたものね』
間違いなく薬は打たれていた。それなのにナイフを掴み、ものすごい勢いで背後の男を倒すマティーニ。耐性があったのか……と思いながら自らも拳銃を抜き周囲の者へ向ける。
殺す……のかもしれないな。手を汚すのは不本意だがこれも目的を果たすため……。そう覚悟を決めたものの、マティーニはあっさり手を引くようだった。
歩き出した彼女を見て異変に気づく。おぼつかない足取り、掴まれたままのナイフ。まさか薬は効いているのか……?
「……おい、これは離せ」
ナイフを掴んだ腕を取ると、ぼんやりとした視線を向けられる。そこでやっと気づいたとでもいうように、手からナイフが落ちてカランと音を立てた。血が滴っている。傷はかなり深いようだ。
そこでマティーニは崩れるように座り込んだ。息が荒く、顔も赤い。その様子に湧き上がりそうになる欲を押し込んだ。
「……ったく」
立ち上がれそうにもないので横抱きにして助手席へ乗せる。それにもビクッと身体を震わせる。
ドアを閉め、大きく息を吐いた。どうにか耐えられるだろうか……。
「手、見せろ」
そう言うと力なく手が差し出される。血が止まりそうもないくらいの傷。
「応急処置くらいしかできない。後でちゃんと見てもらえ」
手に触れるだけで反応する。耐えるようにギュッと瞑られた目。止血の意味も込めて少しキツく包帯を巻いた。
『早く……帰らせて……』
震える声で言われるがこんな状態でどうするつもりなのか。生憎こいつが住む場所もアジトの位置も知らない。
「どこへ行けと?」
『待ち合わせたとこでいいからっ……』
全く何を考えているんだか……。
マティーニの顎を掴み無理矢理視線を合わせる。
「こんな顔をして、ろくに歩けもしない女が無事に帰れると思うか?」
今のこの女に欲情しないヤツがいるなら会ってみたいもんだ。押さえ込んた欲が湧き上がってくる。
『ライにはっ……関係ないでしょっ……!』
「……相手してやろうか?」
すぐさまシートを倒し、上へ覆いかぶさる。
『いや……やだっ……!』
押しのけようとする手には力が入っていない。喉元を舐めあげればビクビクと反応する。ファスナーをおろし肌に手を触れる。以前見た傷跡をなぞり、そのまま下へ手を伸ばしていく。