第14章 苦しさよりも※
「お待ちしておりましたよ……いつもとは違う方と一緒なんですね」
取引相手のボスはニヤニヤしながら言う。毎回思うがこのニヤケ顔はどうにかならないものか……気持ち悪い。
『ええ……さっさと済ませましょ』
互いに出したケースの中身を確認する。中身に問題はなさそうだ。変な細工も見当たらない。
『それじゃあこれで……』
と立ち上がった瞬間周囲の男が拳銃を構える。
反射的に手を上げる。ライも同様に。
『……なんのつもりかしら』
「いえ……せっかくですし最近開発した薬をと思いまして」
ボスの男は懐から注射器を取り出す。
『それは?』
「媚薬ですよ……普段お渡ししているものより数段強く、即効性に優れたものですが」
近づいてくる男に思わず後ずさる。ニヤニヤした顔がここまで気持ち悪く見えるのは初めてかもしれない。
「あなたのその美しい顔が快感に歪む顔を是非見てみたいと思いまして」
「手荒で申し訳ありませんが……」
部下の1人が背後に周り、首元にナイフが当てられる。ライが動こうとするのが見え、小さく首を振る。下手に動いたら私よりライの方が危険だ。
「それでは早速……」
腕を掴まれ針が刺さる。そしてジワジワと薬が入ってくる感覚。薬を押し切った注射器を抜いて舐め上げるように見てくる男。
「いかがですか?」
……身体があつい。脳が揺れてるような感覚に陥る。こんなヤツの思い通りになってたまるか。
『……舐められたものね』
首元にあったナイフを素手で掴む。チリッとした痛みが走り、肌に刃がくい込んで血が出た。そうでもしないと理性が吹き飛びそうで。
「なっ……何を……」
背後の男の顎へ肘で一撃。その隙に自分の愛銃を抜きボスの男へ向ける。
「効かないはずが……」
青ざめた表情を浮かべ震え出す。ここまでされて何もしないわけにはいかない。でも、正直立っているので精一杯。
『今回は見逃してあげる……次はないわよ』
熱が増していく身体に鞭を打って歩き出した。
「……おい、これは離せ」
ライの声がして、ぼんやりした思考で掴まれた手を見る。ナイフ掴んだままだ……手を離すと地面に落ちてカランと音を立てる。血が滴っているのに感覚がない。いや、少し痺れているかも……。車の所まで戻ったはいいけど、もう限界。立っているのもままならず、崩れ落ちるように座り込んだ。