第14章 苦しさよりも※
『早いのね』
「女を待たせることはしないさ」
車が横につけられる。シボレーだなんてまた目立つ車を……。
今日は取引。他のメンバーは都合が悪いらしく、ライと行くことになった。何度か会った相手だから問題ないと思うが……先日の組織のようなことが続くのはごめんだ。
「薬の取引だと聞いたが」
『そうよ。よく使わせてもらってるの』
「製薬会社か何かか?」
『表向きは。取引するのは麻薬とか催淫剤とかだけど』
「催淫剤ね……」
『興味あるなら持ってけばいいわ』
情報収集の時、身体を使っても口を割らない相手用だ。何度か使ったが効き目は結構いいようで。
「いや、遠慮しておこう」
『そんなもの使わなくても満足させられてるってこと?』
「……あいつとは何もない」
『付き合ってしばらく経つわよね?まだ手出してないの?』
「時間がなくてな」
『どうだか……魅力がないって言ってるようなものじゃない』
「大事にしたいんだ」
「それでも……好きな相手に何もされないのは結構辛いのよ」
自分も似たようなものだから。今は触れる以前に会えてすらいないのだけど。
「そういや……お前とジンはどういう関係だ?」
『は?』
「噂で聞いたんだ。お前に手を出すと殺されかねないってな」
どこの誰だか知らないけど余計なことを……ライのタバコを1本奪い火をつける。
「恋人同士か?」
『身体だけよ……最近は会わないけど』
自分で言って苦しくなる。明美とライのような恋人同士ではない……それはわかっている。自分の一方的な思いしかないことくらい。
「その顔だと片思いってところだな」
『……ちょっとはデリカシーってものを学んだら?』
灰皿に短くなったタバコを押し付け、ライを睨む。
「その気があるなら相手くらいしてやる」
『冗談じゃない。女のいる男に手出すほど困ってないから』
まあ……ライの彼女が明美じゃなかったら……なんて考える自分も大概だ。
『明美を裏切るような真似できるわけないでしょ……大事な子なんだから』
「以前から思っていたが、ずいぶん仲がいいんだな」
『当たり前よ。貴方より付き合い長いんだから……本当に悲しませるようなことしないでよ』
「……ああ」
わかってるんだか微妙な返事。こっちは本気で言ってるのに……そんな会話をしているうちに取引場所についた。