第6章 水族館
「…本人には言うな」
「いやいや言わないって。自分で言うだろ?」
勿論だ。
覚悟が決まったら、の話だが。
俺が頷くと、満足そうに錆兎は微笑む。
「悪かった。子供みたいに」
「義勇が子供なのは今に始まった事じゃないだろ」
心外だ。
「俺は子供じゃない」
「ははっ、分かってるよ。義勇、俺は柚葉ちゃんとどうこうなりたいとか無いから心配するな」
「ん」
「あとは?何か言っときたい事あるか?」
あるにはあるのだが、また子供みたいに…と言われそうだ。
だが言わずに悶々としたままなのも嫌なので、この際だからもう言ってしまおう。
「錆兎は…何故下の名前で呼ぶんだ」
「誰?あぁ柚葉ちゃん?」
「そうだ」
錆兎が花里の名前を呼ぶ度、胸がモヤモヤとして敵わない。
この先ずっとこれなのかと思うと正直気が滅入る。
「何故と言われてもなぁ…、呼びやすいから?」
「花里もお前を名前で呼んでいる」
まだ俺は呼んだことも、呼ばれた事もないのに…
目の前で名前を呼び合っているのを見ていると、羨ましいのだ。
「それは義勇が呼んでるからだろ?」
「?」
「義勇は俺の事名前で呼ぶだろ?それ聞いてるから柚葉ちゃんは義勇に影響受けてるんだよ」
「…なるほど」
そう言われてしまうと、先程まであった嫉妬心も段々と薄れて来る。
「呼びたいなら言えばいいだろ?」
「嫌われたくない」
「初対面の俺が大丈夫なんだから義勇はもっと大丈夫だって!」
錆兎に太鼓判を押され、ならば一度聞いてみようと心に決める。
「分かった。聞いてみる」
「おぅ、頑張れ義勇!」
「その意気だ!」と錆兎に背中を押されて、花里の所まで一緒に戻った。
「ごめん柚葉ちゃん。お待たせ」
「いえ、お話出来ましたか?」
「うん、もう大丈夫だよ。じゃあ義勇、柚葉ちゃん送ってくだろ?」
「あぁ」
「柚葉ちゃんまたね」
手を振る錆兎に花里はぺこっと頭を下げてから手を振り返す。
俺は「また明日」と錆兎に告げてから2人で錆兎の家の門を出た。