第6章 水族館
「とっ…とと冨岡さんは⁈ご家族で水族館とかっ、…来た事ありますか⁈」
照れ隠しなのか、大慌てで話題を変えようとする花里。
必死過ぎてつい笑ってしまいそうになるが、そこもまた可愛らしいなと思う。
花里の頑張りを無駄にはするまいと、今し方されたその質問に乗っかる事にした。
「俺も水族館は家族で来た事がある。まだ小学生で、その頃はサメが好きだった」
子供の頃は可愛いものより、大きくてカッコいいものが見たかったので、サメの水槽の前に張り付いていた記憶がある。
「男の子ってサメ好きですよね!私はちょっと怖いですけど」
「そうだな。怖いが強そうでかっこいいと思っていた。…サメで思い出したが、その時の俺の身長と同じ大きさのサメのぬいぐるみを買ってもらった」
今はもう出してないが、確か俺の部屋のクローゼットに眠っているはずだ。
「ぬいぐるみ抱えた冨岡さん可愛いですね!見たかったなぁ」
…その可愛いはぬいぐるみではなく俺なのか?
「ぬいぐるみなら、まだ家に置いてある。…見るか?」
「いいんですか?見たいです!」
何を聞いているんだ俺は…、と思ったが、思いの外花里が食い付いてくれてほっとした。
ぬいぐるみならばいくらでも見せてやろう。
「じゃあ今度遊びに行きますね」
「いつでもどうぞ」
また会う約束が出来て、心の底から嬉しいと思っている自分がいた。
誰かと会えると思うだけで、こんな気持ちになるなんて、今まであっただろうか…
「そういえば、冨岡さんはご兄弟はいらっしゃるんですか?」
「っ……」
不意に投げかけられた花里の素朴な質問に、一瞬息が詰まる。
落ち着け俺
彼女は何も悪くない
構えていなかった俺が悪いのだ
「…姉が、一人…」
「そうなんですね!いいなぁ、私一人っ子だから」
やっと絞り出した声は、思ったよりもか細かった。
それでも花里にはきちんと届いていたようで、羨ましいと俺に笑い掛けてくれる。
何も知らない無邪気な花里の声に、バクバクと音を立てていた心臓もだんだんと落ち着いてくる。
屈託のない笑顔に、俺は救われるようだった。