第1章 出逢い
もう泣き止んでいるし、気分も落ち着いている。
見た目だけで判断するならもう大丈夫だろう。
しかし、俺にはどうしても気になる事がある。
何故、この子は泣いていたのだろうか。
この子があんなになるまでに何があったのだろうか。
目の前で泣かれて、何も聞かずに帰るのは、今日の俺には出来なかった。
人に興味の無い俺が、相手を知る為に、遂に一歩踏み出しだ。
「…気になる事がある」
「…はい?」
「何か…あったのか?」
「いえ…何も」
ふいっと明後日の方向を向いてしまう女の子。
…思いっきり目を逸らされた。
そんなに言いたくないのだろうか。
無理強いはしたくはないが…
どうしても気になって仕方がない俺は、もう少しだけこの子の心の領域に踏み込んでみる。
「何も無くてお前はあんなに泣くのか?」
「いや、何というか…見ず知らずの方にそんな…気にしないで下さい。すみません」
……はっ!
一番大事な事をすっ飛ばしていた。
もう知っている気でいたが、俺はこの子の名前すら知らないのだ。
では、知って貰えば問題ないということか。
「冨岡義勇。大学4年だ。教師を目指している」
「……?」
突然始まった自己紹介に彼女は困惑。
少々強引だっただろうか。
気になるからと言ってこんなにしつこく…
だが、こうでもしないと俺の気が済まなかった。
さっきから胸が騒つくのだ。
このままで終わらせてはいけない。
俺は、この子が抱えているものを、知っておかなければならないのではないかと…
「………私は、花里柚葉です。高校2年です」
少々間があってから、彼女も自己紹介をしてくれた。
「これで一応見ず知らずでは無くなったな」
「あ…ふふっほんとだ」
花里の表情が少し和らぎ、俺は安心した。
「無理にとは言わない。だが、何か心の中に溜め込んでいるものがあるなら吐き出してしまった方が良い」
「でも…聞いたら気分悪くなると思います」
「俺は構わない。溜め込むと体に良くない」
「…優しいんですね冨岡さん…いいんですか?」
「俺が全部聞いてやる」
初めは驚いていたが、困った様に笑い…
やがてぽつりぽつりと話してくれた。