第1章 出逢い
「ほら」
「え?」
「喉が乾かないか?」
「あ、…ありがとうございます」
女の子は受け取ったミネラルウォーターの蓋を開けて、口を付けるとコクッと一口分飲み込む。
そこまで見届けてから、俺はさっきついでに一緒に買った自分の分のペットボトルに口を付けた。
ちなみに中身は同じミネラルウォーター。
別のものでも良かったんだが何となく、その方が良いような気がしたからだ。
「落ち着いたか?」
「はい、だいぶ。多分もう大丈夫です!」
そう言って女の子は拳を握り、俺に向かってガッツポーズを決める。
…。
そんな泣き腫らした顔で言われても説得力がないんだが。
そして何故そのポーズなのか。
色々突っ込みたい所はあるのだが、…やめておこう。
「あの…」
「なんだ」
「…さっきはすみませんでした」
「さっきとは?」
「ほら最初、私思いっきり逃げちゃって」
「あぁ、そうだったな」
出会って数分、俺の元から全力で走り去って行く後ろ姿を思い出す。
「あの時ほんとに不審者だと思っちゃったんですっ!本当は全然違いますよね⁈勘違いしてごめんなさい!」
女の子は膝に抱えた鞄に、おでこがのめり込みそうな勢いで俺に向かって思いっきり頭を下げた。
「いや…」
俺に頭を下げる必要なんか無いのでは?
どちらかと言うと、驚かせてしまった俺の方が悪いように思うのだが。
謝らせてしまって申し訳ない。
しかし、分かってはいたが改めて『不審者だと思っていた』などと言われてしまうと…ちょっとショックだ。
と、頭の中ではごちゃごちゃと考えながら、今しがた行われた女の子の謝罪にどう返事を返したら良いのやらと考えあぐねた結果、
「問題ない」
こんな返ししか思い浮かばなかった。
…偉そうだ。
もっと他になかったのだろうか俺。
それでも女の子は俺の返答に気分を害することなく、
「良かったです」
と安堵の表情を浮かべた。