第5章 あの時…
花里と一緒に、2人のいる所まで近付いて行く。
先に気付いたのは甘露寺だった。
「え?え⁈ 2人ともどうしたの⁈」
「…何のつもりだ冨岡」
甘露寺との2人の時間を邪魔された伊黒は、至極不機嫌そうに俺を睨み付けた。
「話がある」
「黙れ俺に話しかけるなとっとと帰れ」
とんでもない三拍子。
「どうしても話したい事がある」
「俺は貴様と話す事など何もない」
…心が折れそうだ。
だかここで怯んでいては折角花里が後押しをしてくれたのに無駄になってしまう。
「少しだけでいい。…ダメだろうか」
「悪いがお断りだ。行こう蜜璃」
「小芭内さん…」
甘露寺は俺にお構い無しに行こうとする伊黒に戸惑いながら、俺に申し訳なさそうに視線を送る。
やはり、無理か…
「柚葉もこっちへおいで。無理にコイツに付き合う必要はない」
無情にも、花里が連れて行かれようとしている。
また、俺は失敗したようだ。
やはり俺1人では、拗れた人間関係を修復する事は困難なのか。
もう一度、錆兎に助けてもらわねばならないのだろうか…
伊黒が花里を手招きする。
きっとあちらへ行くのだろう。
少しの間だったが、楽しいひと時だった。
伊黒達の元へ向かったら、俺は帰るとしよう。
感傷に浸りながら、花里が動き出すのを待つ。
しかし…
いつまで経っても花里は俺の隣を動かない。
「柚葉ちゃん?」
伊黒達が心配そうに花里の様子を窺っている。
「… 花里?」
さっきまであんなに沢山話をしていた花里がずっと俯いたままなので、俺も段々心配になって来た。
どうしたのだろうか…
「伊黒さん…」
俯いていた花里は勢い良く顔を上げると、
「冨岡さんのお話聞いてあげて下さい!」
俺に代わり、今度は花里が伊黒に向かってお願いをした。
「柚葉…、なぜお前がお願いをする」
「さっき冨岡さんに話聞いたの。…伊黒さん、冨岡さんの事嫌いじゃないよね?」
「すまない…、それは答えられん」
「本当は…許したいでしょう?」
「っ…」
「2人が喧嘩したままなのは、…悲しいな」
言葉を詰まらせる伊黒。
暫し沈黙の後、はぁ…と一つ溜息を吐き顔を上げた。