第5章 あの時…
納得仕切れない俺に、花里は更に続けてこう言った。
「冨岡さん蜜璃ちゃんの連絡先知ってますよね?」
「あぁ」
初めて会った時に、『伊黒さんのお友達の方⁈じゃあ連絡先交換しましょ!』と言う具合に半ば強引に交換させられたのだ。
伊黒もいたし、俺は遠慮したのだが…
「ほら!それです!」
「…どれだ?」
花里はさっきから何が言いたいのだろうか。
鈍い俺は花里の話の先がなかなか読めず、少々もどかしい。
「冨岡さん、蜜璃ちゃんと連絡先交換した時伊黒さんもいましたよね?」
「勿論だ」
大学にいる時以外は2人は殆ど一緒にいるので俺達もそれが当たり前だと思っている。
寧ろ外で1人ずつでいる所を見た事がないくらいだ。
花里は「そうかそうかやっぱりか」、とでも言いたげな笑顔でうんうんと頷いている。
「…何が言いたい?」
「あのね冨岡さん。あの“蜜璃ちゃん命“の伊黒さんですよ?その伊黒さんが目の前で自分以外の男性と蜜璃ちゃんが連絡先の交換をしているのを黙って見ているなんて、あり得ません!」
「ほぉ」
「そもそも、嫌いな人に自分の彼女をわざわざ紹介なんて絶対しません!」
「そういうものか」
「はい!だからね、冨岡さんにそれをしたってことは……、もう分かりますよね?」
ここまで力説されて、鈍感な俺でもようやく分かった。
そうか、伊黒はまだ俺の事を…。
だがまだ一つだけ、分からない事がある。
「伊黒が、まだ俺の事を友人と思っていてくれているという事はよく分かった。ただ…」
「はい」
「伊黒がまだ怒っている理由が分からない…」
と言うのは…
あの時俺が言い放った言葉の意味を錆兎が代弁してくれたので、誤解は解けた。
そこまでは良かったのだが…。
伊黒は錆兎の説明を聞いて一応納得はしてくれたらしい。
だがその後“簡単には許せない“と言って更に怒って立ち去ってしまったそうだ。
「錆兎が追いかけて、口下手な俺の事を許してやって欲しいと言ってくれたみたいなのだが…」
『俺が怒っているのはそこではない!!』
「悪化してしまったみたいだ」
花里はそれを聞いて、「それはそうなりますね!」と、納得したようにまた頷いた。
何故だ。
また置いてけぼり…