第5章 あの時…
俺が家に帰った後、直ぐに錆兎が俺の家に来た。
2人とも大分怒っていたと…。
錆兎は俺の事をよく分かっているので、俺からの少ない情報で俺の心情を理解し、不死川と伊黒に代弁してくれた。
後日不死川からは『1人で抱え込むんじゃねェ!』とゲンコツを一発食らい許してもらえた。
しかし錆兎の話だと、伊黒は事情を説明した後、もっと怒ってしまったらしい。
「その時から、伊黒さんはずっと怒ってらっしゃると…」
「まぁ…、そんな所だ」
俺の話を聞いてから、何やら「ふむ…」と考えていたが、「歩きながら考えましょう!」と、向こうに見える水槽がアーチ状になっている通路に向かう事にした。
「いっぱい泳いでますね〜!」
「水族館だからな」
「あ、エイですよ冨岡さん!」
「うん」
花里は、大量の魚の群れに混ざって自分達の頭上を通り越していくエイを発見すると、指差して俺に教えた。
「エイって下から見るとお口可愛いですよね!」
「そう…だな…?」
…エイを、今まで可愛いと思った事がないのだが…。
ちょっと分からなかったが、言われるがまま一応頷いておく。
花里が言うのならば、これからはエイの口は可愛いのだと思う事にしよう。
「私、思ったんですが…」
頭の上を優雅に泳ぐエイを仰ぎ見ながら、花里が呟いた。
「多分伊黒さんは、冨岡さんの事嫌いじゃないと思います」
…なんと。
「何故そう思う」
俺には全くそう思えないのだが。
花里は何故か自信たっぷりだ。
「だって、考えてもみてください。本当に嫌だったら、たとえ蜜璃ちゃんのお願いでも今日冨岡さんが一緒に来る事を全力で阻止したと思うんです」
「そう…なのか?」
「はい!それに、私今冨岡さんといますけど、もし本当に冨岡さんの事が嫌いなら、そんな奴に妹分は預けないかと」
「成程」
言われてみれば、そうなのかもしれないと思い始めたのだが、今までを思い返してみると…、そうとも言い切れない所が多々ある。
やはり、伊黒は俺の事を良くは思っていないのではなかろうか。