第5章 あの時…
「俺が質問をする度に皆の手が止まり、それが他の3人の邪魔をしていると思えてならなかった。俺の事を煩わしく思っているんじゃないかと。だから俺はその場から離れる事にした」
あの頃の俺はまだ子供で、未熟過ぎた。
気にしなくてもいい事を気にして、周りがまるで見えていなかった。
その結果、俺は判断を間違えたのだ。
『やっぱり帰る』
『義勇?』
『ァア?なんだよ。分かんなかったんならもっぺん教えてやるから座れェ』
『いや、いい。俺は失礼する』
『はァ⁈おい、勝手に失礼すんじゃねェ!』
『冨岡…』
学校の図書室の出入口へ向かう俺を追いかけて来たのは伊黒だった。
『どうした?お前…大丈夫か?』
伊黒はあの時ちゃんと優しかったし、本気で俺を心配してくれていたのだ。
なのに、俺は…
『……俺はお前達とは違う』
その瞬間、その場が凍り付いたのが分かった。
…あぁ、違ったのか…
俺が言うべき事は、これではなかったのだ…
その時の伊黒の顔は今でも忘れられない。
困惑、絶望が入り混じった、そんな表情だった。
言葉も態度も全てが間違っていた。
それなのに、俺は他になんと言ったらいいか分からなくて、居た堪れなくなりそのままその場を後にしてしまった。
「当時の状況はこんな感じだ」
黙って聞いていた花里は、少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「冨岡さんは、どうして“俺はお前達とは違う“って言ったんですか?」
「…俺は、“一度聞いて理解出来るほど賢くはない。何度も手を止めてもらってお前達の時間を使ってしまうのは申し訳ないので、ここからは1人で頑張ってみます。“…と言ったつもりだった」
「冨岡さん…ごめんなさい!それは……、全く伝わってなかったと思います…!!」
「……」
物凄く、申し訳なさそうに言われた…。
俺もその時何となく感じていた。
俺が言いたい事と別の意味で受け取られてしまったのではないかと…
だが当時の俺は気持ちを言葉で表現するのが下手くそ過ぎて、それは今でも変わらないのだが…、他に何と言えばいいのか分からなかった。
その結果、相手を傷つけたまま放置してしまった。