第5章 あの時…
ところで…
「お前は、良かったのか?」
「え?」
何の事かと花里は首を傾げる。
「甘露寺達と一緒でなくて良かったのか?」
チケットは3枚しか無いと言っていたので、元々3人で来る予定だったのではないだろうか。
だから二手に別れようと提案された時、"伊黒・甘露寺・花里"と"俺“で分かれるのかと思っていた。
しかし花里は俺の方へ来たので、良いのだろうかと気になっていたのだ。
「はい!私冨岡さんと回りたかったので全く問題ないです!」
花里はにこやかに、俺の予想だにしなかった台詞を言い放った。
……なんと!
「そう…なのか?」
俺は驚きを隠せず、思わず聞き返してしまった。
いや、顔に出ないとよく言われるので隠せていたのかもしれないが。
「はい!……え?あ!ぁぁあのっ、深い意味は無いと言いますか…!その…、蜜璃ちゃん達が元々デートする予定だったので、2人にしてあげた方がいいかなぁ…と思いまして!」
…物凄く、焦っている。
そうか、深い意味はないのか。
少しばかり残念だな、と思ってしまった。
だがそうだったとしても、俺と回りたかったと思ってくれていた事が、素直に嬉しかった。
「そうか、2人はデートだったか」
「そうなんです」
「ではこちらで問題ないな」
「はい!」
花里はにこっと笑いながら元気よく返事をした。
「あともう1個なんですけど…」
まだあるのか。
「なんだ」
「空気を…変えたいなぁと思って」
「……さっきの?」
「はい、あの…伊黒さんとあまり仲がよろしくないのかと…」
「…そうだな」
あまり…というか、かなり…だ。
「やっぱり。さっき伊黒さんすごくイライラしてたので、一旦離した方がいいかなぁって蜜璃ちゃんと相談して、その結果こうなりました」
さっき俺達から離れて何やら話し込んでいたのはその為だったのか。
気を遣わせて申し訳なく思った。
「そうか…すまなかった」
「気にしないでください!私は今すごく楽しいので!」
大丈夫ですよと気遣ってくれる花里の優しさが心に沁みた。