第5章 あの時…
「見てください冨岡さん!小っちゃいクラゲです!」
「あぁ、そうだな」
「ふよふよしてます!かわいい!」
「ふよふよ…」
見ろと言われたので俺も一緒に鑑賞する。
筒状の水槽は底から白や紫のライトで照らされており、そこに無数の小さなクラゲが漂っている。
花里の言う通り、ふよふよと…
にこにことクラゲを堪能、かと思えば…
「はっ!あっちに小っちゃい可愛いのいます!」
小さな魚の世界を見つけ、俺を置いてそちらへぱっと行ってしまった。
…置いてけぼり。
だがそれだけ楽しんでいると言う事だろう。
こんなに無邪気な姿を見るのはなんだか新鮮だった。
振り回されるのも悪くないと思いながら、俺も花里の隣に並んだ。
「ほら見て冨岡さん!今隠れたの!」
「どれ…」
隠れたのなら見えないではないかと一言申したい所だが、そんなに見て欲しいならと花里の指差す先へ注目する。
すると、先程隠れたのであろうオレンジと白の縦縞の小さい魚が珊瑚の隙間からひょこっと顔を出した。
「ニ○だよ!○モ!」
「……」
カクレクマノミ…
○モではないと、言ってやるべきなのだろうか。
だが知ってて言っているのならば大きなお世話だ。
それに、いつの間にか敬語もどこかへ吹っ飛んでしまうくらい気持ちが昂っているのだろう。
こんなに楽しんでいるのに水を差すのは可哀想だ。
また今度、一緒に来る時があれば教えてやろう。
…俺が誘ったら、来てくれるだろうか。
「楽しいか?」
「うん!楽しいっ……はっ!」
どうやら気付いたらしい。
しまった!みたいな顔をしている。
「ごめんなさい!私ばっかり…はしゃいで」
「いや、問題ない」
「でも、子供みたいに…。恥ずかしいです」
穴があったら入りたい…と、花里は恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまった。
17歳なんてまだまだはしゃいでもいい歳ではないか。
こんなにはしゃいでいる花里を見れて、むしろ俺は嬉しく思う。
「お前が楽しいと、俺も楽しいからいい」
気にするなと、頭をよしよししてやると、ぽっと顔を赤らめる花里。
可愛いな…
…
一緒にいると、つい手が出てしまう。
今日の俺は、この間以上に…まずいかもしれない。