第5章 あの時…
「良かったわね柚葉ちゃん!」
「うん!」
そんなに俺と行きたかったのだろうか。
心なしか声も弾んでいて、嬉しいのだと鈍い俺にも理解できた。
行くと言っただけでそんなに喜んでもらえるとは、なんだか小鯖ゆい…
「俺は気に食わん。さっさと帰ってもらおうか」
「だが、いいのか?」
未だ胸倉を掴まれているので身体は動かせず。
俺が何が言いたいのか、ちらっとそちらの方を見やる。
伊黒も気付いたのか、俺の目線の先へゆっくりと視線を動かしていくと…
もう準備万端です!と、にこにこで俺たちの出発を待つ甘露寺と花里。
それを見て、伊黒は「はぁー…」と深いため息を吐いた。
きっと本当は俺と一緒に行きたくないのだろう。
そこは申し訳ないが、今日は花里の方を優先させたい。
伊黒もそう判断したのだろうか、諦めたように乱暴に俺の胸倉から手を離した。
「……早く支度をして来い冨岡…時間を無駄にするな」
「…分かった」
そう言い残して伊黒は甘露寺の方へと向かって行く。
入れ替わるように今度は花里が俺の方へとやって来た。
「冨岡さん、今日予定大丈夫だったんですか?」
「別の日にしたから大丈夫だ」
本当はまだ何も言ってないんだが…。
錆兎なら…大丈夫だろう。
「良かったぁ」
嬉しそうに笑ってくれる花里を見て、俺の選択は間違っていなかったのだと思えてほっとした。
錆兎に何を言われるかは分からないが…。
「支度をしてくる。先に伊黒たちと駅で待っていてくれ」
「はい、待ってますね」
また後で、と花里は手を振り伊黒と甘露寺と一緒に駅に向かって歩き出した。
俺も急ごう。
支度と…錆兎だ。
急いで家まで戻り、支度を整え家を出ると、駅に行く前に隣の錆兎の家に寄った。
「あれ?義勇今日午後じゃなかったか?」
「すまん錆兎。今日も無理だ」
「……また?」
…ホントにごめん。