第5章 あの時…
3人が去った後、玄関にぽつんと1人取り残される。
今まで、こんなに罪悪感に苛まれた事があっただろうか。
去り際に振り返った花里の、哀しげな表情が頭から離れない。
さっきの俺の選択は、間違っていたのかもしれない。
俺が断ったせいで、あんな顔をさせてしまった…
……。
「…錆兎、すまない」
独り呟き、居ても立ってもいられず俺は駆け出した。
どこへ行ったかよく分からなかったが、水族館がどうのと言っていたので電車に乗るだろうと思い、とりあえずそっち方面へ向かって走る。
幸いにも直ぐに3人に追いつく事が出来た。
「待てっ」
「っぎゃあ!」
声を掛けるのと同時に花里の腕を捕まえたので驚いたのだろう。
花里はとんでもない悲鳴を上げた。
なんつー悲鳴…
「貴様、何しに来た」
突然現れた俺を伊黒はギロリと睨み付ける。
もう慣れた俺はそんな事で怯む事なく、ここまで追いかけて来た理由を伝えた。
「俺も………、行く」
「はぁっ?!!」
俺がそう告げた瞬間、花里の表情がぱぁっと輝いた。
甘露寺も同じように顔を輝かせていたが、伊黒は反対に絶望していた。
「おい冨岡、さっき行かないと言っていただろう」
「気が変わった」
「気が変わった?冗談も大概にしろ。帰れ」
「断る」
「貴様っ!」
苛ついた伊黒が俺の胸ぐらを掴んできたが、俺の方が上背があるので結果伊黒を見下ろすような形になり、余計に苛つかせる事になった。
「元々貴様は来る予定になかったのだから帰れ」
「さっき俺も誘うつもりだったのだろう。今日の予定が無くなったから断る理由はなくなった。だから俺も行く」
「こんな時だけ流暢に喋るな」
お互い一歩も譲らず火花を散らしていると、
「あの、冨岡さん…」
か細い声が、俺たちの戦いを止めた。
ハッと我に返り、声がした方へ目を向けると、花里が希望に満ちた瞳でこちらを見つめていた。
「一緒に、来てくれるんですか?」
「あぁ、行くよ」
俺がそう言うと、花里は満面の笑みを浮かべた。