第5章 あの時…
そんな大混乱な俺を見て、花里は首を傾げる。
「どうしたんですか?冨岡さん」
「いや、花里もすまないが…今日は何か約束をしていただろうか?」
「え?」
「……」
「……」
「きゃーー!ごめんなさぁーい!!」
突然目の前から耳を劈くような悲鳴が。
自分のスマホを確認した甘露寺が何か気付いたようだ。
うぅ、鼓膜が…
「あのねっ、私この前柚葉ちゃんと電話した時任せてねって言ったでしょう?だからね、頑張らなきゃって思ってねっ!あの後すぐ小芭内さんに電話したらいいよって言ってくれたのよ!私嬉しくなっちゃってね!もううきうきになっちゃって!そしたら今度はだんだん眠くなってきちゃったのね!だからねっ、本当は冨岡さんに連絡入れようと思ってたんだけど眠いから明日にしようと思ったの!そしたらねっ!……連絡するの忘れちゃってたのぉー!!」
甘露寺は一気に捲し立てた後「穴があったら入りたいわぁ〜!」と言い、その場に蹲ってわんわんと泣き出した。
花里は目が点になっているし、いつの間にか来た伊黒は頭痛そうに額に手を当てていた。
……。
人ん家の玄関先で何をやっている…。
すかさず伊黒が慰めに入った。
「よしよし、蜜璃は悪くない。悪いのは全部冨岡だ」
何故そうなる。
「夢の中では連絡してたのぉ…」
「そうだったか。蜜璃は偉いなぁ」
などと言ってえらいえらいと甘露寺の頭をよしよしと撫でる。
伊黒は甘露寺に心底甘いようだ。
しかし夢の中では意味がない。
ところで甘露寺は俺に何の連絡をしようとしていたのだろうか。
何も聞いていない俺は、此奴らが何故ここへ来たのかも分からぬままなので、ただ只管に寸劇を見せられている気分である。
すると突然伊黒がキッと鋭い視線を向けてきた。
「おい貴様、俺の蜜璃を泣かせたな?」
「…俺じゃない」
勝手に泣いただけだ。
「蜜璃はお前にちゃんと連絡を入れたと言っている」
いや夢の中…。
「なぜ気付かない!!」
普通に無理!
なんとも理不尽な物言いに憤りを覚えるが、しかし何か言い返そうものなら倍返し以上で返ってくるので、俺はこれ以上言葉を返すことを諦める。
しかし、これだけは言っておかねばならない。
「…俺はエスパーじゃない」
「黙れ!!」
…怒られた。