第1章 出逢い
電車を降りてからも、俺としては珍しく、話が尽きなかった。
花里と話す時間はとても楽しく、気付けばいつの間にか花里の家の前に着いていた。
「うちここです。今日はありがとうございました。勇気が出ました!お母さんにちゃんと言えそうです!」
「大した事はしていない」
家の電気は付いておらず、まだ母親は帰ってきてない様だった。
「もう少ししたら帰ってくるので大丈夫ですよ」
「そうか……1人で大丈夫か?」
"1人で大丈夫か"
それは花里に聞いた様で、本当は俺は自分に問いかけたのかもしれない言葉だった。
「冨岡さん?」
「いや…何でもない。戸締まりしっかりな」
「はい」
「…じゃあ」
名残惜しかったが、俺は家に向かって歩き出した。
「冨岡さん!」
不意に呼ばれて振り向くと
「ありがとうっ」
今日見た中で1番いい笑顔だった。
やっぱり、笑った顔がよく似合う。
俺も釣られて微笑み、角を曲がって姿が見えなくなるまで俺たちはお互い手を振った。
「また会いたいな…」
そう花里がそっと呟いたのを、俺は知らない。