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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第65章 年越しは3つの日輪と 〜another story〜✳︎✳︎



それから長羽織、襟巻き、と身につけた後は、昨日簪と一緒に杏寿郎さんに買って貰った手袋を両手にはめると、黒の生地の先からチラリと覗く10個の色にふふっと顔が綻ぶ。

「今日はとっても良い日になりそうです。年越しみんなで出来るのが楽しみ!」

両手に塗られた爪紅を目線の高さに合わせ、そんな事を言うと、杏寿郎さんが触れるだけの口付けをくれた。

色移りした彼の唇がとても綺麗で名残惜しかったけど、ちり紙で拭き取る。私は再度曙色の紅を塗り直し、杏寿郎さんと一緒に部屋を出た。















そして —— 23時40分。

新しい年がやって来る20分前、除夜の鐘をつく為に時の鐘の前に並んでいる所だ。私達4人の前には同じように整理券を手にした人が104人程、列を作っている。

家族連れ、女性同士、男性数人、恋人達、ご年配の夫婦…と多種多様な顔ぶれだ。

1番の整理券を持っている男性が鐘付き守の男性に促されて、鐘付き台へと登っていく様子が見えた。そして彼は釣鐘をボーン………と川越の町一帯に響かせる。

旧年から新年への橋渡しの音の始まりだった。







100回、101回と順調に続き、いよいよ105番の整理券を持っているお義父さんの順番が近づく。

「緊張して来ました」
「千、大丈夫だ。気を楽に持て」

「私も少し、足が震えています」
「七瀬、大丈夫だ」

ポンポンと私の両肩に大きな掌が当たると、緊張感などなかったようにスッと気持ちが落ち着いてくる。

「鬼殺はあんなに勇ましくやっていたのに不思議な物だ」
「杏寿郎さん………初めての経験は何であれ緊張してしまいますよ」

そうだな、と次に私の頭をよしよしと撫でる彼は余裕たっぷり。
お義父さんと言い、杏寿郎さんと言い、柱を長くやっていた方達の胆力を改めて尊敬してしまう。


お義父さん、千寿郎くん、そして私の鐘つきは滞りなく終わり、いよいよ108回目。

杏寿郎さんの番がやってきた。

柱時代とちっとも変わらないその堂々たる姿勢は下から見ていても、充分に伝わって来る。


ボーン…………

川越の町に新年を知らせる始まりの音が響いた。
次の瞬間、矢継ぎ早に「あけましておめでとう!」の挨拶が飛び交っていく。


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