第66章 I want to be scarlet ✳︎✳︎
「そう言えばね……他の人から憧れられている人ってその人自身にも憧れの存在がいたんだって、聞いた事があるよ」
「へえ……そうなんですか。初めて聞きました」
不死川さんはわからないけど、と前置きした私は”いつかきっと俺もなりたい” 杏寿郎さんはそんな風に感じた事があったみたいだよ、と彼に伝えた。
「なんか……人に歴史ありって感じですね」
「私も本当にそう思う。だから柴崎くんも将来誰かから憧れています!って言われるんじゃない?」
「沢渡さん、ありがとうございます!俺、任務も恋も精一杯頑張ってみます!」
それから3週間後の朝稽古終了時、彼から文が届く。
私は手拭いで顔の汗を拭きながら、縁側に座って読み始めた。
【沢渡さんへ
日々の任務、お疲れ様です!大迫に気持ちを伝えて、付き合う事になりました。あの時背中を押してくれて本当にありがとうございます。任務はまだまだなんですが…】
「風柱に太刀筋を誉めてもらいました…か」
文はそう続いていた。
不死川さんは人をめったに誉めない印象だ。
良かったね………。
ふふっと笑顔がこぼれると、右横から自分の名前を呼ばれた。
「嬉しそうだな。朗報か?」
はい、と大きく頷いた私は木刀をしまい終え、隣に腰掛けて来た杏寿郎さんに報告をし始めた。
「ねえ、杏寿郎さん。私、夕日が沈む理由を考えてみました」
「ほう、また面白そうな話だな」
「きっとなんですけど………」
自分が沈んでも明日になれば必ず朝日が昇る。だから安心して沈んでいるのではないか。そんな事を彼に伝えた。
私は緋色になりたい。
朝日を思わせる恋人のように、優しく強くなりたい。
”ありのままの自分を大事にして欲しい”
そう言ってくれた彼の言葉も大切にしたい。
けれど ———
『やっぱり私はあなたのようになりたいです』
話し終わった後、私は隣にいる恋人をぎゅうっと抱きしめた。
「どうした?」
「いえ、こうしたいなあって思っただけです」
「そうか」
背中に回った彼の手はとても優しくあたたかかった。
「杏寿郎さん…大好き」
「俺の方が君を好きだと思うぞ」
ふふっと笑いながら上を見上げると、彼から口付けが届く。
いつの日か夕日の自分も好きだと、朝日のあなたに胸を張って言えますように。
end.