第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
———— 時代は江戸末期まで遡る。幕末とも呼ばれていた頃の事だ。
「へーえ、大層上玉だね。えっ?男の子なの?」
「ああ、見とれちまうぐらい綺麗だろ?どうだ、今夜一晩。こいつと過ごしてみるってのは。好きなようにしていいぞ」
「あんたこの子まだ年端もいかない子供じゃないか。でも、確かに綺麗な子だけどさあ。しつけがいもありそうだね。色々と」
『何で僕はいつもこんな事をされるのだろう』
女子と見紛う顔立ちをした少年は9歳で、来月10歳を迎える。その名を朝緋(あさひ)と言う。
彼の母、茜は半年前流行り病にかかってしまいあっけなく死んだ。
冒頭の会話は父親である朔夜(さくや)とその後妻になる予定の満子の物である。
「じゃあ、朝緋。早速だが楽しませてもらうよ。おや、体も美麗の一言だね?」
『母さんが生きてた頃はあんなに綺麗な家族だったのに……どうしてこの家はこんなに汚れてしまったんだろう』
朝緋が普段から過ごしている部屋は陽光があまり当たらない。
父親は息子を外に連れ出した後は決まってこの部屋で悪戯をするのだ。
『太陽を表す名前なのに、陽の光に当たる事が出来ないなんてなあ』
朝緋と言う名前は茜が朔夜に提案した物だ。
“自分達の名前が夜を表す名前で、どこか寂しくない?あなたとの大切な子供には朝を思わせるこの名前がぴったりだと思うの。きっとこの子は我が家の道標になってくれるはずよ”
朝緋は茜の面影をよく宿している。
初七日が終わり、四十九日が過ぎた途端。朔夜はそれまで溜め込んでいた思いを爆発させるように、息子にそれをぶつけた。
着ている物を剥ぎ取ったかと思うと、息子の体を組み敷く。
そうして朔夜は愛した女の代わりとでも言うように、己の息子の体を犯していった。
朝緋は抵抗しなかった。大好きだった母を亡くした悲しみで、朔夜同様に無気力になっていたからだ。
幼い心に現実を受け止める度量と言う物は、存在していなかった。