第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
それから数年経ち、朝緋は18歳になった。
幼き頃からの美貌は更に洗練され、外を歩けば女のみならず男までもが振り向く。自分から寄っていかずとも、相手からその身を求められるのだ。
そして朔夜から悪戯される日々は15を迎えた途端、終わりを迎えた。朔夜と満子の間に待望の子供が生まれたからだ。
腹違いの弟の名前は”日向(ひなた)”
自分と同じ太陽を思わせる名だ。
『こいつら、本当に自分達の事しか考えてない。今まで散々俺を玩具扱いしたくせに、日向が生まれた途端にお払い箱かよ……』
見た目が磨かれた事と反比例するように、朝緋の内面はどんどん尖っていった。
——— しかし。
「にーに、あそぼ?」
「………」
「にーに、りんごいっしょにたべようよ〜」
「………」
「にーに、にーに、だあいすき」
『うっとうしい』
「にーに!おでかけ!いこう?」
『うっとうしいけど………』
「にーに!にーに!にーに!」
「日向、そんなに何回も呼ばなくても俺はここにいるぞ」
朝緋は純粋に自分を慕ってくれる弟に段々と心を開いていった。
「一緒に街行くか?」
「………うん!!」
そんなある日。
兄弟で街へと出かけた時の事だ。
「ごめんなさい、お怪我はありませんか?」
「……母さん?」
「え?」
「あ、いや…申し訳ない。気にしないで下さい」
日向を両手に抱きかかえた朝緋は、すれ違いざまぶつかった。
自分と同じ焦茶色の双眸と髪の色をした同じ歳ぐらいの女だった。
くるりときびすを返して立ち去ろうとしたその時、女が朝緋の着ていた群青色の衣服にそっと触れる。
「どうかされたんですか?」
「え?」
「その……目」
「目が何か?」
“涙、流されてますよ”