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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎


「はー……緊張する。七瀬はどうだ?」
「もちろん右に同じ!緊張するのが正しい反応だよ、炭治郎」


今日は8月31日。夏と呼ばれる季節の1番最後の日 — そう言って良いと思う。まだ残暑は厳しいけれど、夜に鳴く虫達は確実に秋を知らせる調べに変わっているし、夜風も真夏の物よりは幾分か涼しげに吹いている。

将門塚の石室の周りは槇寿郎さんが言っていたように、12個の松明で円形状にぐるっと囲まれている。

松明はアカマツの薪(まき)を20個程縄で縛り、その下から直径12センチのヒノキの芯が差し込んである物だ。
ヒノキの周辺を経木(きょうぎ)で覆い、上から下にいくにつれて裾広がりの着物のように経木が広がっている。

先程石室の周りは掃除し終えた。そこより5メートル程後ろの場所に立った私と弟弟子は、設置されている松明を見ながら互いに緊張感を隠せずにいた。


「手首に組紐を結んだんだね」

「ああ、俺は短髪で髪を結ぶ事が出来ないから何となくここかなあと思って……」

「一緒、一緒。何か嬉しいよ」

炭治郎は白、私は赤の組紐を左手首に巻いている。それらを見せ合い、少し緊張感が和らぐ会話をしていると後ろから名前を呼ばれた。


「そろそろ時間だ。君達は冨岡の所へ」

そう言って兄弟子が立っている場所を右掌で示し、あちらに行くよう促してくれたのは杏寿郎さんだ。今日は黒の組紐で後ろの髪を1部分だけ結んでいる。


「あ…冨岡さんも組紐は髪用にされたんですね」

「ああ、ここしか俺は思いつかなかった」

青い組紐で1つ結びにしている髪の束をちょんちょんと指差す彼に少しだけ癒される。

大事な儀式前でも流石、柱の2人は落ち着いているなあ。感心していると、私達3人の前方10メートルの場所にいる杏寿郎さんが石室の前で一礼をした。

顔を上げると彼は鞘から静かに日輪刀を抜いて、中段に構える。
それからスウ…と呼吸を炎に変えると、緋色の刀身にゆっくりと紅蓮が光っていく。


「炎の呼吸・壱ノ型」
「———不知火」

杏寿郎さんが立っている場所から横一閃の太刀を振るうと、左斜め前にある松明に炎が灯った。

時刻は20時丁度。これが将門塚の再建、”始まりの合図” である。


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