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君に届くまで

第17章 薬を作る



「勝手に…。体が勝手に動いてた、かな。たぶん。助けようって意識は無かったと思うぜ。」

「…怖くはなかったんですか?」

「怖くはなかったな。言ったろ、体が勝手に動いてたって。」

「もし、ですよ?…もしまた、同じ選択を迫られた時…、あなたはまた同じ答えを出しますか?」

「レンちゃん、もう…。」

言いかけた燭台切を薬研が止めた。

「いいさ。答えるだけなら何でもないことだ。」

「薬研君…。」

薬研はレンに向き直る。

「何度同じ選択を迫られても、何度も同じ答えを出すだろうな。
俺は、見て見ぬふりは出来なかった。五虎退を見殺しにしたくなかった。したら俺の中の何かが壊れると思ったから。」

「…生きてほしかった、ですか?」

薬研は驚き、目を瞠る。
暫し考えた後、考えながら答えを出していく。

「…生きてほしい、か。そんな風に考えたことなかったけど…、生きてほしいと思ったかな。あの瞬間は。
…五虎退が死ぬくらいなら俺が死ぬ、って。」

「…五虎退に、幸せになってほしかった?」

“生きて幸せに”はレンが旅先でよく聞く言葉だった。
子供に、親に、兄弟に…。
“生きてほしい”と願う人達はその先にだいたい”幸せに”を望む。

「そうだな…。」

「…生きるって、幸せなことなんでしょうか?」

「え…?…大将は幸せじゃないのか?」

「…何をもって、幸せ、というのでしょう。…定義がわからないので、何とも言えません。
…昔、友に”生きろ”と言われたので、大事に生きています。
けど、”生きる”ということが、何をもって”生きる”なのか、と今でも考えています。」

レンは考え考え、答えた。
“生きる”とは何なのか、今でもずっと考え続けている。
リヨクが、”根”として木の葉を支えることを良しとしてきたからそれに倣っているだけであり、レンの考えではない。リヨクが最期に何を伝えたかったのかは、本当のところわかっていないのだ。

薬研は”そうか”と答え、それきりまた黙々と薬を作り始める。
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