第72章 忍界大戦5
「…なぁ、いの。」
薬研は彼女の隣に立ち、話しかける。
彼女からは返答はない。
「宿命と運命の違いを知っているか?」
薬研は返事がないのも構わず話し出した。
「宿命は、定められてどうすることも出来ない道、だそうだ。運命は抗えば如何とでも変えられるんだと。無数にある選択肢のうちの一つの道が運命なんだとさ。」
いのは眉を顰める。
だから、何だと言うのか。
自分もシカマルもチョウジも、いや、誰一人として決められた戦場以外には行けはしない。そんなことをすれば、和も結束も乱れてしまう。
仮に本部に戻れたとして、全滅する程の戦力を自分がどうにか出来る訳もない。
つまり、レンの言うように本部の者が邪気擬きに包まれていたのなら、それはどうすることも出来ない宿命だと言いたいのか。
「俺は…、邪気擬きは運命だと思うんだ。」
いのは、思わずきつい眼差しを薬研に向けた。
「だからってお父さん達を助けられなければ、そんなの宿命と変わらないじゃない。
私達はどうあってもここから動けないし、行ったところでどうしていいかも分からない。どうしろって言うのよ。」
薬研はいのの剣幕にたじろいだ。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。」
「お父さんが死ぬなんて聞かされて、平然となんてしてられないわよ。」
「…悪りぃ。言い方が悪かったな。」
薬研は困ったように頬を掻いた。
「俺は、単にそうと決まったわけじゃないって言いたかっただけだ。幾つかある道の一つなら、まだ確定じゃない。如何様にも変えられると思ったんだ。」
薬研は真剣な眼差しをいのに向ける。
「だから、諦めるのはまだ早い。だって、あんたの親父さんはまだこの時も生きてるだろ?」
いのは仏頂面を浮かべながらも頷く。