第72章 忍界大戦5
「それ、本当なの?」
いのはレンから聞いて顔色を変えた。
邪気擬きは死の気配だったということ、本部の忍が全員邪気擬きに包まれていたことは、正に青天の霹靂だった。
「本部にはお父さん達がいるのよ?」
いのにとってはそれが一番の驚愕だった。
彼女も忍。
死は覚悟の上だ。
お父さんもそうだろう、と彼女は思う。
思うが、どこかで自分は、自分達は大丈夫、という気持ちがあったのも事実だ。
「それにこの戦争において、本部が一番安全な場所。それが全滅する程の何かが起きるって言うの?」
父親が死ぬなんて予言は、いのには受け入れ難かった。
その為に、ついレンに詰問するように問い詰めてしまう。
そうなるだろう、とレンも思っていた。
このような反応を見せるだろうと思ったからこそ、気が重かった。
だが、これは純然たる事実だ。
レンにもどうすることも出来ない。
「…分かりません。どんな原因でその様な事態になるのかは私には想像すら出来ません。」
邪気擬きが死の気配なら、その死因まで見通すことが出来ればどんなに楽かとレンは思う。
「…さっきの女の人は死の直前まで、真っ黒な黒い靄に包まれていましたが、亡くなったと同時に霧散した。これは曲げようのない事実です。」
これが今出せる精一杯の、嘘偽りない情報であることは分かってもらいたかった。
レンは、苦々しい思いを抱えながら視線を下げた。
いのにもそれは伝わったらしい。
呆然としながら、押し黙ってしまった。
「…言わない方が…良かったですか?」
レンは傷ついた面持ちで自身を見つめるいのを悲し気に見る。
だが、今度はいのが俯いてしまった。
「…そんなの…分からないわ…。」
それきり黙ってしまったいのに、どうしていいのか分からず、レンは彼女を残してその場を後にした。