第72章 忍界大戦5
すると、広場の方が俄に騒がしくなった。
レンは立ち上がると、少しだけ立ち止まり、ぎゅっと手を握りしめる。
そして、ゆっくりと一歩を歩き始めた。
近づけば近づく程、血の匂いは濃く漂いはじめ、怪我人に巻かれている包帯に滲み出ている赤が、レンの恐怖を掻き立てる。
レンはそれでも懸命に足を動かして、人集りの方へと近づいていく。
「不味いぞ!呼吸が止まった!人工呼吸、急げ!!」
「俺、気付け薬取ってくる!」
「ついでに止血剤もお願い!」
「脈が乱れてる!心臓マッサージできる奴いるか!?」
「私やる!」
「がんばれ!戻って来い!がんばれ!」
懸命な処置が続くその場所は、真っ黒な靄で覆われている。
嫌な気配ではない。
顔の判別も儘ならないそれは、邪気擬きだ。
様子を見ていると、然程時間が経たぬ内に、その靄は煙が掻き消えるようにすぅっと消えていく。
そこには、若い女性が横たわっていた。
自分とそう変わらない年のように見える。
「…脈が…ない。」
「呼吸も戻って来ない…。」
「駄目だったか…。」
救護措置をしていた者達は、手を止めて項垂れた。
レンはそれを見て、黙ったまま踵を返した。
「邪気擬きが何なのか、分かりました…。」
「…死の気配なのか?」
レンの言葉に薬研が隣から尋ねた。
「はい…。」
レンの重苦しい返事に、薬研と鶴丸は押し黙る。
前方には、いのが待っている。
邪気擬きは彼女の父親も纏っていた。
邪気擬きが何なのか分かった今、彼女にはそれを伝えるべきだろうとレンは判断する。
「気が重い…。」
レンはため息をつきながら、重い足取りでいのの元へと歩いていった。