第16章 江雪左文字の頼み
程なくして、広間に着くとレンの足は廊下の角でピタリと止まってしまった。
「…私は行けません。…お願いします。あれをどうにかしてください…。」
2人は顔を見合わせる。
彼等は何事か相談すると、薬研が中に入り、五虎退はレンの側に付き添う。
薬研は、手前の障子を開けて中を確認する。
そこには燭台切がいた。
他にも誰かいるようだ。
「あぁ、薬研君。レンちゃんがそっちに行かなかったかい?」
「大将なら、廊下の角にいるぜ。一体何があったんだ?」
薬研は燭台切の近くへ歩いていくと、江雪がいる事に気づく。次いで、布団に寝かされている小夜がいるのがわかった。
薬研はそれで大体理解する。
左文字兄弟は粟田口に続いて被害の大きな所だ。皆重症でそのまま放置されていた筈だ。
だが、レンのあの怯えようはわからない。彼らは殆ど動けず、攻撃できない筈。
「レンちゃんは血を見ることが出来ないんだ。
血だらけの小夜ちゃんを見て固まってしまってね。」
薬研の疑問を見て取り、燭台切は答える。
「成程な、それであの反応か。」
「怯えているのかい?」
「頑なに中に入ろうとしないんだ。何とかしてくれって。」
燭台切は難しい顔をする。
「レンちゃんは今1人かい?」
「いいや。五虎退がついてる。」
燭台切はそれを聞くと、立ち上がり、廊下の角に向かう。
そこには、蹲るレンの背を摩っている五虎退がいた。
燭台切はレンの目線に合わせる様に、彼女の側にしゃがみ込む。
「レンちゃん、もう大丈夫だよ。血は粗方拭き取ったし、あの子は布団で寝ているよ。」
声をかけると、レンはゆるゆると顔を上げた。
冷や汗だろう、前髪が濡れている。
「…入らなきゃ、ダメですか…?」
「…江雪さんが話したいことがあるんだって。まずは聞いてあげて。」