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君に届くまで

第16章 江雪左文字の頼み



五虎退は、居間で虎を撫でていると、障子に人影が写っているのに気がついた。
誰だろうと気になり、障子を開けて外を覗いてみると、そこに黒い塊が蹲っていた。

「……!」

驚きすぎて声を出さないまま固まってしまった。

だが、よくよく見てみると、黒い塊はレンだった。

普通に怖い。
何で何も言わずにここで蹲っているのか、疑問だ。

「あ、あるじ、さま、ですか?」

五虎退は恐る恐る確かめると、レンは徐に顔を上げる。

「…五虎退、助けてください。…私では手に負えません。“貸し1”はそれでチャラでいいですから…。お願いします…。」

レンらしくもなく、弱々しい小声だった。
よく見ると顔が真っ青だ。冷や汗なのか、前髪が薄ら濡れている。

「な、何があったんですか…!?」

「どうした?五虎退。何かあったのか?」

丁度いいところに薬研が来てくれた。

「大将か?顔が真っ青じゃないか。大丈夫か?」

薬研はそう言って、レンに合わせてしゃがみ込む。

「…助けてください。…私では手に負えません。…お願いします…。」

譫言のように同じ言葉を繰り返すレンに困り果てて互いの顔を見合わせる。

「…とりあえず、大将。俺達は何処に行けばいいんだ?」

「…広間に。…広間に、大怪我した人が…来ました…。あれは無理です…。助けてください…。」

「…ちょっと待っててくれ。」

薬研はそう言って部屋の中に入り、何かを抱えて戻ってきた。

「よし、行くか。」

2人は気力の無いレンを立たせて、薬研が前を行き、五虎退がレンの手を繋いで先導する。
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