第16章 江雪左文字の頼み
燭台切は空いている部屋を片っ端から見て回り、包帯になりそうな布を探して回った。
厨にも確かあった筈だ、と考えを巡らせる。
先程のレンの様子が頭を過ぎる。
恐怖がありありと浮かんだ青白い顔、僅かに震える肩、浅く荒い呼吸…。
ゆらりゆらりと去っていくレンは今にも倒れそうだった。
あの反応は異常だ。
“血を見れない”って言ってたのはこういうことだったのか。
とにかく、あの子に血を見せたらいけない。
燭台切は急いで広間に戻ると、江雪は微動だにせず、座ったままだった。
燭台切は小夜に近寄ると首元の血を拭き取っていく。
「…主様は助けてはくれないのでしょうか?」
江雪が絶望を滲ませた声で呟く。
燭台切は一度顔を上げ、江雪に向き直った。
「さっき、助っ人を呼んでくるって言っていたよ。だからきっと戻ってくる。その間に綺麗にしよう。」
「…私達は人間のように手当てしても治りません。傷が塞がらないのですから。」
燭台切は痛まし気に江雪を見る。
「…そうだね。でもあの子の前で血が見えなければいいんだ。そうでないと、話が出来なくなる。あの子は、小夜ちゃんを見てとても怖がっていたよ。」
江雪はゆるゆると顔を上げ、燭台切を見た。
「お小夜を怖がった…?傷だらけのこの子を…?」
燭台切は頷き、小夜の体を綺麗にしていく。
「昔、大切な人が死ぬ場面に出会して、それから血を見ることが出来なくなったんだって。」
江雪は驚き、目を瞠る。