第16章 江雪左文字の頼み
2人が移動しようとしていると、誰かが来る気配がする。
レンは立ち止まり、その方を見ると、廊下に着物の所々が血に染まっている人物が、ゆらりゆらりとこちらに歩いてくる。
乱れた長く薄い水色の髪で顔がよく見えない。
着物でよくは見えないが、腕に小さい子を抱えているように見える。
出で立ちはまるで、子供を抱いた女の幽霊だ。
「…江…雪…さん。」
隣から燭台切の震えた声が聞こえた。
「…江雪さん?刀剣、ですか?」
レンの問いかけに燭台切は黙って頷く。
江雪はレンの近くまで来ると歩みを止めた。
「…主様にお願いがございます。」
そう言うとゆっくりとその場に正座をし、腕に抱えている子を下ろし、横たえる。
その姿を見てレンは一瞬で息を呑んだ。
その子供は首元に大きな傷があり、失血していたのだ。
横たえたと同時にじわりじわりと血溜まりができる。
胴体も怪我を負っているのだろう。首元よりは遅れて、胴体の周りにも徐々に血溜まりができていく。
リヨクの姿が重なって見える。
体が硬直し、手が震える。
息が苦しい。
目が離せない。
見せないで。お願い。
私にその子を見せないで。
「…。…ちゃん。レン!!」
燭台切の声が聞こえ、ゆるゆると声の方を向く。
「大丈夫か?!」
焦ったような心配そうな様子の燭台切が目に映った。
レンは黙って頷く。
「…すみません。ちょっとだけ…ここを任せてもいいですか?」
「どうするんだい?」
「…助っ人を呼んできます。…すぐ、戻りますから。」
レンはそう言うと、動きにくい体をどうにかして動かし、五虎退の部屋へと急いだ。