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君に届くまで

第65章 演練大会ーその後ー



――真夜中…。――



ふと、目が覚めた。


レンの方を見ると、苦しそうな声が小さく聞こえて来る。

「レン?」

声をかけてみるも返事はない。
魘されているのだろうか…。

俺は起き上がって、レンの様子を覗き込んだ。
…起きてはいないようだが、苦し気に顔を歪ませている。

「レン…、レン…。」

起きれるなら起きた方がいいかもしれないと思った俺は、声をかけながら少し肩を揺すってみる。
すると薄ら目が開いて、その目がぼんやりと俺を見た。

「…つる…さん…?」

レンは、掠れた声で弱々しく俺の名を呼ぶ。

「魘されていたぞ。大丈夫か?」

小さめの声で尋ねると、レンはゆっくり頷いた。

「水でも飲むか?少しは気分が良くなるだろう。」

俺の問いかけにレンが頷くのを見て、予め枕元に用意しておいた水をコップに注いだ。

「少し起こすぞ。」

一言断りを入れると、彼女の首元に手を差し入れ、上体を起こしてやる。
次いで、水の入ったコップを渡すと、こくり、こくりと飲み干していく。

「…ありがとう…。」

差し出されたコップを受け取ると、俺はまたレンを寝かせてやる。

念の為、解熱剤を手元に用意しておいた方がいいか…。

触れた体がまだまだ熱いことが気になった俺は、書斎部屋に置いた薬を取りに行こうと立ち上がろうとした。
その時、くいっと着物の裾を掴まれる。

「…いか、ないで…。」

いつになく弱々しい声が下から聞こえてきた。
そちらを向くと、熱のせいで上気した顔に目元を頼りなく揺らしたレンと視線がかち合った。

常にない気弱なレンに、俺は動くに動けず、結局付きっきりで側にいることを選ぶ。

「…行かないさ。ここにいる。」

そう答えると、レンは微笑んで俺の小指を握り締めた。

不安、なのだろうか…。

俺は、自分の布団を引き寄せると、レンの布団とぴたりと付けて、彼女の布団に入り込む。

「今夜はずっと一緒だ。」

そう言ってレンの熱い手を両手で握ると、彼女は安心したようにまた眠りに落ちる。

「おやすみ、レン…。」

俺は、すやすやと眠るレンの寝顔を、暫く見つめていた。

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