第15章 二日酔い
五虎退がおずおずとその時のことを薬研に話して聞かせた。
「鹿を一頭狩ってきた!?」
薬研は驚きすぎてついレンの側で大声を上げてしまう。
レンは、堪らず頭を手で押さえながら呻く。
「あ、悪い、つい…。」
暫し沈黙が流れる。
次いで薬研にゆるゆると笑いが込み上げた。
最初は肩を震わせる程度の笑いが、堪えきれず大きな笑いになり、やがて腹が捩れる程の笑いになる。
レンは顔を顰めながら黙って薬研を見遣る。
ー何なんだ、一体。
ひとしきり笑って満足したのか、涙を拭いながらレンを見る。
「あんたは面白い奴だな。気に入った!」
「…そうですか。ここの人達にはウケがいいようで…。」
ズキズキと痛む頭に辟易しながらレンは答える。
薬研はその様子に、困ったように笑った。
ふと真面目な顔つきになると、レンに向き直る。
「…大将、改めて礼を言わせてくれ。
今回は本当に助かった。ありがとう。」
薬研は、そう言ってレンに頭を下げた。
それに倣い五虎退も頭を下げる。
それを見て困ったのはレンだ。
そんなご大層なことをした覚えはない。
「…昨日も言いましたが、五虎退を助けたのは私の都合によるものです。あなたが助かったのは副産物のようなものです。
なので、頭を上げましょうか。」
「いや、それでも助けてもらったのは事実だ。
だから筋を通させてくれ。」
聞き入れられないようだ。
レンは軽くため息をつくと、困ったように頬をかく。
「…ならあなたも”貸し1”ってことでどうです?必要な時に返してください。」
「あぁ、分かった。いつでも言ってくれ。」
そう言って頭を上げた。
「さて、大将も具合が良くないみたいだし、今日のところは退散するぜ。邪魔したな、大将。」
薬研と五虎退は立ち上がる。
「薬と水、ありがとうございます。」
レンは帰って行く2人に礼を言う。
2人の姿が見えなくなったところで、ほぅと息をついて、レンはまたいそいそと布団に潜り込んだ。