第14章 薬研藤四郎の目覚め
「いい加減見飽きた。苦痛なんだ、何もかもが。
あの夢を見た朝の、寝覚めの悪さは最悪だ。
だからあの時思ったことがわかれば、思い出せば、見なくなるんじゃないかと思って。」
燭台切はレンの壮絶な過去に驚きながらも、自分だったらと考えてみる。それは、
「…苦しかった、悲しかった、とか?」
「悲しい、苦しい…。それのどれもが当てはまるようで当てはまらない。もっと深くて暗い感情だった気がする。けど、よく覚えてなくて…。」
レンは、またごろんと寝転がった。
「私は、どうしたかったんだろうな…。」
あの出来事から10年以上は経つ。
私はまだリヨクの死を認めたくないとでも言いたいのだろうか。
話せば話す程自分の感情がわからなくなっていくことに、レンは密かに苛立っていた。
やがてレンから、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
どうやら酔い潰れたようだ。
「感情がわからない、か。」
そんな経験したこともない。
もがいているんだろうか。苦しみから逃れる為に。
捨ててしまったんだろうか。大切な人を失ったことに打ちひしがれて。
自分で大切な人を殺すって、どんな風に思うものなんだろう。
ふと、太鼓鐘の顔が浮かぶ。
今、彼は重症で伊達組の部屋で静かに眠っている。もしかしたら明日には薬研のように消えるかもしれない。
太鼓鐘貞宗。彼は先代の審神者に折れる寸前まで戦に駆り出され、深い傷を負った。鶴丸や燭台切が嘆願しなければそのまま折られていただろう。
「大切な人を殺すのと…大切な人を殺されるのと…。どっちが辛いんだろうね。」
燭台切は満月を見上げながら寂しく笑った。