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君に届くまで

第14章 薬研藤四郎の目覚め


それきり、沈黙が流れる。

今夜は丸い月がよく見える。時折ふわりと吹き抜ける風が火照った肌に心地よい。体がふわふわして今ならいい眠りにつけそうな気がする。

「ねぇ、薬研君を治したこと後悔してるの?」

唐突になんなんだ、とレンは眠い頭を働かせながら考える。

「なんで?」

ーなんでそんな風に思うんだろう。

「君が落ち込んでるように見えたから。」

ー落ち込んでたってけか、私。

「薬研君を治したこと後悔してるのかなって、思ってさ。」

レンは五虎退を思い出す。
震えながら”お願いします”と言ったあの子の言葉を。

「…後悔は、してない。
私は見たかったんだ…。薬研を助けて、五虎退がどんな風に薬研に声をかけるのか、薬研はなんて答えるか。」

レンは目を隠すように腕を置く。

「…本当はあの日、死ぬのは私だった筈なんだ。リヨクじゃない。だって殆ど勝ったことのない私がリヨクに勝てる筈ないんだ。
あの日、リヨクは私に命を譲った。最後の一手で私に向けたクナイを下げたんだ。だから私のクナイはリヨクに届いた。」

そう言って、レンはぎゅっと手を握り込んだ。
その姿は泣いてるようにも見える。

「五虎退は薬研に庇われたと言っていた。同じだと思った。自分のせいで大事な人が死んだ。死にかけてる。
だから助けてみたくなった。善意じゃない。私はただ反応が知りたかっただけだ。」

そう言うと起き上がり、また酒を呷る。

「…飲み過ぎだよ。」

燭台切の忠告に耳を貸すことなく、酒を呑む。
瓢箪から口を離すと、袖口で溢れた酒を拭った。

「でも、知りたいことが知れなかった。」

「知りたいこと?」

「よく…夢を見る。リヨクの最期の夢。私が急所を突いて、リヨクが冷たくなっていくところまでしっかりと…。
夢を見る時は大抵その夢ばっかりなんだ。」

レンは柱にもたれかかり、遠くを見る。
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