第64章 演練大会ー2日目ー
レンは相対する大和守の刀をしげしげと見る。
刀身の切先から根本の鍔に近い部分まで、特にこれといった異常は見当たらない。
「何見てるんだ!」
「別に。見られて困るものでもあるのか?」
噛み付く勢いで怒鳴る大和守を、レンは平然と見ながら飄々と答える。
その様子に苛つきを覚えた大和守は一歩後ろに下がると突きを繰り出した。
ヒュッと風を切る音が右耳の近くで鳴り響く。
早い。
が、今の大倶利伽羅や鶴丸と比べると大したことはない。
「この…!」
そこから怒涛の攻撃が連続で繰り出される。
レンは加州の刀で払えるものは払いながらも全て見切って逃げていく。
「舐めてるのか!攻撃して来いよ!」
咆哮のような叫び声と共に強烈な打撃を繰り出した。
「くっ…。」
重い.…!
レンが辛うじてそれを受け止めると、再び鍔迫り合いに縺れ込む。
大和守は、それを見てニヤリと笑った。と同時に彼の体からは靄が吹き出す。
それはじわじわと侵食するかのようにレンの中に入ってくる。
ー気持ち悪い…
レンはあまりの不快感に顔を顰めた。
早いところ止めなければレンの方が保たないだろう。
そうなれば、加州のことを聞き出すどころではない。
ー一か八か…。
止めるとなると、力技では不利だ。
賭けに近い不意打ちが有効打となるが、賭けに負ければ一気に不利に傾く。
レンは意を決して体に力を入れた。
そして素早く右横に逸れて刀を抜くと、力の均衡が崩れた。
「……!」
突然失った支えに大和守の体が僅かに前のめりになり、胴が空く。
レンはすばやく右手で彼の肩口の服を鷲掴み、鳩尾に膝蹴りを入れる。
「ぐふっ…!」
痛い、苦しい、という感覚が大和守の中を支配する。
体は一瞬で強ばり、その場に崩れ落ちるように蹲った。
レンはそれを見て刀を鞘に収めると、両手を握り込み振り上げた。
ゴン!という音が大和守の全身に響き、視界が揺れる。
堪らずドサッと地面に崩れ落ちた。
ゆらゆらと揺れる視界の中、上を見上げると、加州が無表情で見下ろしている。
それを何とも言えない心持ちで見ているうちに、視界が暗くなっていった。