第63章 演練大会ー1日目ー
「長居は無用です。私達も戻りましょう。」
レンは何事もなかったかのように買い物袋を拾い直し、すたすたと歩き出した。
「ま、待って。」
燭台切は、ぼんやりとしている加州の腕を引っ張り、慌ててレンの後を追った。
「…ごめん。」
「何がですか?」
エレベーターの中で、加州はしょんぼりと落ち込んでぽつりと呟くが、レンは本気で分からず、問い返した。
「だって、人間と喧嘩になっちゃって…。そのせいでレンにまで火の粉が飛んじゃって…。」
「大丈夫ですよ。怪我してないでしょ?」
ほら、と言って、レンは少し両手を広げて見せる。
「でも、巻き込んだ…。ごめん。」
「よくあることですし。事なきを得たんだからいいじゃないですか。気にする程ではありませんよ。」
「え゛…?よくあるのかい?こんなこと。」
燭台切は顔を引き攣らせて、レンを見る。
加州もぽかんと口を開けて唖然とした。
「前はありましたよ。特に見た目がこんなですしね。小さいってだけで弱く見えるらしいです。」
その言葉に2人は二の句が継げない。
その視線を受けてレンは少し肩を竦めた。
「ちんぴらに絡まれるなんて、野良犬に吠えられるのと一緒ですよ。」
「「…野良犬と一緒…。」」
…普通こういった場面では、”きゃ!怖い!”と男に頼るものではないだろうか。
そんなレンも想像できないが…。
兎にも角にも、女は男が守るもの、というのが燭台切にも加州にも根底にある。
それだけに、やっぱりレンの感覚はよく分からない、と2人は思うのだった。