第63章 演練大会ー1日目ー
「お前が例のテロリストか。なんだ、普通の女じゃん。」
「もっとゴリラを想像してたんだけど。」
そう言ってどっと笑う。
「君、ちっちゃくてかわいいね。これから俺等とどう?」
男の一人がレンの顔に手を伸ばした。
だが、パシっ、という音と共に素早く手首を取られてしまう。
そして、ピクリとも動かせない。
「クソアマ…!離せよ!」
男が怒鳴ると、レンは素直に手を離した。
「なら気安く触らないでください。ただ喧嘩したいだけなら他所でやってもらえませんか。」
喧嘩を売るようなその言葉と澄ました態度に、男達が熱り立つ。
「大人しくしてりゃあ、調子に乗りやがって!」
「女のくせにいきがってんじゃねぇよ!」
男の一人が拳を振り上げた。
だが、いとも簡単にそれは止められてしまう。
掴まれた拳は、やはりびくともしない。
「このやろ…!」
掴まれた拳をそのままに蹴り飛ばそうとするが、それも簡単に脚で止められてしまった。
「…手を出した、ということは。例え半殺しにされても文句はないってことだよな?」
そう言って、そのレンはひたと男を見据える。
その目は何とも形容し難い仄暗い瞳だった。
一瞬で男に怖気が走る。
「は、離せ…!」
「そっちが先に手を出したんだろうが。」
レンは更に目元を険しくさせて、それがまた射殺されるような恐ろしさを含んでいる。
「分かった…!悪かった…!」
破れかぶれに言うと、レンは素直に離す。
体の自由を取り戻した男は逃げるように後退った。
「やってくれるじゃねぇか…!」
「よせって!あいつはやばいって!別次元だ!」
リーダー格と思しき男が息巻くが、先程レンに捕まった男が慌てて止めに入る。
「行こうぜ。こんな奴相手にしたって面白くねぇよ。」
「お前、ビビってんのか!?」
「いいから。ここで問題起こす方が明日に響く。」
そう宥められ、リーダー格の男は舌打ちする。
ギッとレンをひと睨みすると踵を返した。
いつの間にか人集りは増えていて、辺りはしぃんと静まり返っている。