第63章 演練大会ー1日目ー
鶴丸達と入れ替わりで、江雪、小夜が入り、その後に大倶利伽羅、その後にレンの順番で風呂を済ます。
レンが風呂から上がると、居間ではテーブルの上に所狭しと食事が並べられていた。
彼等はテレビを見ながら既にそれぞれ食べ始めている。
「ご飯来たよ〜。レンも支度して早くおいでよ。」
近くにいた加州が彼女に気づき、にこやかに声をかけた。
「いや、支度は終わったんで大丈夫です。」
レンの答えに、彼は胡乱な目を向けた。
「…髪、乾かした?」
「放っておけば乾きます。」
「やっぱりか。」
加州は、ちょっとおいで、と言いながらレンの手を引いて洗面所へと向かう。
彼女は、前にも似たようなことがあったな、と思う。
刀剣というのは例外なく世話焼きなのかもしれない。
「もう。レンは無頓着すぎるよ。折角の綺麗な黒髪なのに。」
ぶつぶつと文句を言いながらドライヤーと櫛を準備する。
「…自分で出来ますよ?」
「放っておいたらやらないでしょ?はい、前向いて。」
加州はレンを促すと、彼女の髪を乾かし始めた。
鏡越しに映る彼は実に楽しそうだ。
手慣れた様子で、器用に櫛で髪を掬い取りドライヤーを当てていく。
「…もっと乱雑でいいですよ?」
「女の子なんだから、ちゃんとお手入れしなきゃ。」
レンはこういう瞬間、不思議な感覚に陥る。
人と一緒に暮らしている、という実感。
自分が大事にされている、という擽ったさ。
昔を思い、後ろめたい気持ち。
それらが綯い交ぜになってレンを包み込む。
暫し、されるがままに大人しくしていると、ドライヤーの音が止まった。
加州は髪を一本の三つ編みに纏めると、レンの両肩を軽く叩いた。
「はい、終わり。ご飯食べよ。」
「ありがとうございます。」
レンが振り向いてお礼を言うと、加州は嬉しそうに笑った。
「どういたしまして!」