第63章 演練大会ー1日目ー
――そして当日。――
「随分とでかい所だな…。」
初めて五稜郭を訪れた薬研は呟いた。
一般開放されている見晴台からは、五稜郭の全貌がよく見える。
「やけに人が多いですね。」
レンは周りを見渡しながら、少し嫌そうにした。
「それはそうだろう。何せ全国から審神者と刀剣達が集うんだ。人だって多くなるさ。」
鶴丸は何を今更、と言わんばかりに肩を竦める。
「いや、そうじゃなくて。…ほら、例えばあの人達。明らかに審神者っぽくないですよね。」
レンがこっそり指さす方に目を向けると、若い男女数人が楽し気に雑談している。その近くでは、スーツを着たご老人が複数。確かに審神者っぽくはないが…。
「家族や友人、はたまた政府関係者、だったりして?」
加州は若干自信なく、それらしい理由を挙げてみる。
加州と鶴丸は初代の頃にこの大会に出場したことはあったが、もっと小規模なものだった。更に言うならば、当時は一般開放などされていなかった。
大会の方針が変わったのだろうか。
「こう人が多いと、気軽に見て回ることも難しいですね。」
江雪は辺りを見回して言い、小夜も黙って頷いた。
「だな。残念だが、この分だと控室にでも閉じ籠ってる方が安心かもな。」
「ほんと、残念だね。ま、仕方ないか。」
薬研と加州は互いに少し困ったように笑いながら頷き合う。
「そうと決まれば帰るか。…あれ?レンは?」
鶴丸がふと仲間の方に目を向けるとレンがいなくなっている。
その声を受けて燭台切が焦ったように探し出した。
「いた!あの子はっ!」
彼が指さす方を皆で向くと、彼女は特設フードコーナーで既に何袋か買い込んでいる。
「まったく。どこ行っても、レンはレンだよね。」
「「だなっ。」」
加州は吹き出し、釣られるように鶴丸と薬研も笑う。
小夜と江雪も微笑ましく見ている。
「…先が思いやられる…。」
その中で、燭台切は一人胃の腑の辺りを抱えていた。