第14章 薬研藤四郎の目覚め
栓を引っ張ると、きゅっぽん!という音と共に芳醇な香りが溢れ出る。
香りに誘われるように瓢箪に口を付けると、清酒独特の華やかな香りとほんのり甘さを含んだふくよかな味が、口いっぱいに広がった。
純度もかなり高い。喉を通り過ぎる時にかぁーっと焼けつくような感覚がする。
「…おいしいですね。これお高いでしょう?」
「ははっ。お目が高いね。なんせ隠し酒ですから。こっちもどうぞ。酒の肴にもってこいだよ。」
そう言って皿を差し出す。
「こっちが椎茸と鶏肉の焼き物で、こっちが蒟蒻とちりめんじゃこの炒め物。で、これは定番の枝豆。」
豪華だ…。
「よくこんなに作れますね…。いただきます。」
すごい美味しかった。料理人もびっくりの腕前だ。
「ははっ。気に入ったかい?」
「はい、とてもおいしいです。」
燭台切は、今日は朝からレンの様子が変なことが気にかかっていた。
最初は単純に疲れて眠いんだろうと思っていたが、夕飯になっても様子が変わらなかった。何処となく上の空で、心ここに在らずな感が否めない。
ー落ち込んでいるのだろうか。
でも何故?
「酒にでも誘ってみるか…。」
気になった燭台切は、食糧庫の奥に隠してあった隠し酒を2つ出した。酒好きの次郎太刀のとっておきだ。
「ごめんね、次郎さん。」
燭台切は、今は亡き次郎太刀に小さく謝りながら隠し酒を頂戴する。
盆に肴を乗せると瓢箪の縛り紐を持ち、厨を後にする。
広間の側まで来ると、廊下の柱にもたれかかって俯き、微動だにしないレンが見えた。
その姿はどうしても項垂れているようにしか見えない。
燭台切は小さく息を吐くと、ゆっくりとレンに近寄った。
ぎしり、と廊下に足音が響くと、レンは弾かれたように顔を上げ、武器に手を伸ばす。
燭台切が声をかけると彼女は驚いた様子で目を瞠った。