第62章 バーベキュー ーその2ー
その鹿は4頭程、群れを成して行動していた。
先程から、草を食べながら度々首を伸ばし、忙しなく耳を動かしている。
潜む彼等の気配を探っているかのようだ。
レンは、木の上から彼等が配置に着いたのを確認すると、印を組む。
次いで、木の上から一番大きな雄鹿目掛けて飛び降りた。
「風遁、炸裂弾。」
レンは、丸い空気の塊を鹿の側に投げつける。
それは、勢いよく地面に当たると同時に、割れて大音量の乾いた音を響かせた。
鹿達は、突然の破裂音に驚き飛び跳ね、甲高い鳴き声を上げる。そして、散り散りに逃げ出した。
レンが狙った鹿は、彼女の読み通りに沢の方角へと逃げて行く。
同時に潜んでいた薬研達が一斉に駆け出した。
「えぇぇい!」
「いっくよー!」
「えいっ。」
「突撃だ〜!」
後方から追いつき、それぞれ鹿に一撃を当てる。
だが、致命傷には程遠い。
逆に怒り狂ったかのように角を振り回し、暴れ始める。
「わっ…!」
運悪く、尻餅をついた五虎退が標的となった。
「危ない!」
乱が慌てて駆け出した時、
ボスン!!
鹿の胸部を抉るように氷槍が空から降ってきて、地面に突き刺さる。
鹿は短く嘶き、後ろにひっくり返るようにして、また逃げ出した。
だが、鹿だけが怖かった訳ではない。
「こわっ…!」
目の前にいた乱と五虎退も、突然の恐怖に身を竦ませた。
「ぼぅっとするな!追いかけろ!」
レンが木の上から叱咤するのを涙目で見上げながら、2人はまた駆け出して行く。