第62章 バーベキュー ーその2ー
「…レンちゃんは、たぶん怖いんだね。」
燭台切が静かに口を開く。
「血が、だろ?」
鶴丸が答えた。
「その割には、自分の血や獣の血は怖がらないんだ。」
「そうなのか?」
「うん。血から連想されることが怖いんだ、きっと。」
「連想?」
陸奥守が問い返す。
「うん…。僕達を失うこと。亡くなった兄弟。兄弟を死に至らしめた強い負い目。それらがごちゃ混ぜになって襲いかかってくるんじゃないかな。」
燭台切は視線を落として苦く笑った。
「…だとしても、俺達の本分は戦うことだ。」
今日のような編成では、まるで遠足の引率だ。手緩過ぎる。
大倶利伽羅は、戦場で己を顧みない程に殺し合うことを望む。その結果、この前のように重症になったとしても。
「そう、だな…。俺達はどうしたって戦うことに意義を見出す。」
鶴丸とて刀だ。その気持ちは分かる。
大倶利伽羅ほどではなくても、ただ飾りのように置かれているよりは戦場へ赴き、敵を倒して己の強さを証明したい。
燭台切も苦笑を浮かべて大倶利伽羅を見た。
「こればっかりはレンちゃんが決めることだからね…。」
確かに大倶利伽羅にとっては辛い編成かもしれない。
殆どが実力に不安がある者で纏められた編成なのだ。
おそらくは、全体の練度を均一に持っていきたいのだろう、と燭台切は思う。
今のままでは実力に偏りが出過ぎている。
このまま前のような難しい戦場へ赴けば、力負けするのは必定。レンにしたら避けて通りたい道なのだろう。
「…なら、わし等はもっと鍛えんといけんな。」
燭台切は陸奥守を見る。
「レンが安心して送り出せるように。強うならんといけんぜよ。」
陸奥守はにかっと笑う。
「…ま、結局はそこに行き着くしかないよな。」
鶴丸は両手を頭の後ろで組んで、やれやれとため息をつく。
「焦っても仕方ないぜよ、こればっかりは。」
「…そうだね。レンちゃんが大丈夫って思えるように、ね。」
燭台切は困ったように笑いながら、大倶利伽羅を宥めた。
「ちっ…。」
大倶利伽羅もそれは分かっているのか、悪態をつきながらも諦めたように息を吐いた。