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君に届くまで

第14章 薬研藤四郎の目覚め



「とりあえず、薬研兄さん、お加減はいかがですか?」

レンは薬研に向き直り問う。

「…あんたの兄さんになった覚えはないが…。」

薬研は嫌そうな顔をしながら答える。

「記憶障害は無さそうですね。」

「…何ですか?その確認方法は。」

お付きの狐が怪訝そうに尋ねる。

「冗談ですよ。ほんのジョーク。」

「だから!あなたは冗談なのか本気なのかわからないんですよ!」

「まぁまぁ。ところで、本当に体には異常ありませんか?」

お付きの狐が怒鳴るのをあっさり躱し、レンは薬研に向き直る。

「…ないな。良好だ。」

「そうですか、それは何よりです。それでは何かありましたらまた呼んでください。」

そう言って、レンは立ち上がり、部屋を出て行く。

「それじゃ、僕も失礼するよ。お大事に。」

そう言って燭台切も出て行った。



五虎退はしゅん、と落ち込んでしまう。

「どうしましたか、五虎退。」

お付きの狐が問うと、五虎退は落ち込みながら答える。

「もっと…主様に喜んでもらえると思ってたんだけど…。」

「刀を手入れして喜ぶ人間はいない。人間は壊したがる生き物だ。」

薬研は冷静に答えるが、五虎退は首を横に振った。

「あの主様は違うよ。そういう人じゃない。
なんていうか、上手く言えないけど…。
なんとなく落ち込んでるように見えたんだ。がっかりしてるような…、空気が萎んだような、そんなかんじがする。」

鳴狐とお付きの狐は戸惑い、目を見合わせる。

「僕、何かしちゃったかな?」

「…あの人間は変わり者ですからね。
ただ単に、本当に眠かっただけかもしれませんよ。
あまり深く考えないことです。」

うん、と五虎退は答えるも元気がない。

「さあ、折角薬研が治ったんですから、お祝いをしなくては!本当に良かったですね!五虎退、薬研!」

お付きの狐がそう言うと、漸く五虎退に笑みが戻り、薬研も優しく笑った。
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