第61章 主の弱さ
人間でなくて良かった。
なんて言葉を咄嗟に呑み込んだ。
それじゃあ、まるで血を見る時間が短く済んでよかったって言っているみたいじゃないか。
自分で編成組んだくせに。
この人達を追い込んだのはお前だろ。
だいたい、血を見たくないのは、血が怖いのはお前のせいだろ。
お前が受け入れないから…
受け入れないから…?
何を…?
リヨクの死を…?
…リヨクを殺したのは私だ。
命令だったんだ。
お互い納得ずくだった。
仕方ないことだった。
そこまで思って、ふと、疑問に思う。
…本当に仕方ないこと、だったんだろうか、と。
仕方がないことだと、通過儀礼だと、自分が思いたいだけじゃないだろうか。
血を見たくない本当の理由はもしかしたら…
「逃げて、いるんだろうか…。」
独り言のような小さな呟きを、伽羅さんが拾う。
「…何から?」
「リヨクから…。…血を見れば、否が応でも思い出す。だから…。」
「…それだけ、殺したくなかったんだろ。そいつを…。」
伽羅さんの静かな声がやけに響いた。
目頭がかぁっと熱くなる。
溢れそうになる涙をぐっと堪えた。
本当は殺したくなかった、なんて。
…赦されないような気がして、言ったことがなかった。
けど、けど本当は…
「…生きていて、ほしかった…。もっとたくさん、話したかった…。二人でもっと、戦いたかった…。」
会いたい…。
どんなに願っても決して叶うことのない願い。
自分で殺しておいて滑稽だと思う。
だけど、考えずにはいられない。
あれが夢だったらどんなにいいか、と。
もう、普段の顔も声も朧げで、リヨクを思い出せる唯一の物は額当てしかない。
彼の歳をひと回りも超えてしまった。
あの頃には絶対戻れない。
悲しい。ひたすらに悲しい。