第61章 主の弱さ
「…月って…、どの世界から見ても、同じように見えるのかなって思って…。」
そう言うと、伽羅さんもまた、月を見上げる。
「さぁな…。俺はここしか知らないから…。お前の世界でも、月は見えていたのか?」
「はい。…あれとほぼ同じ、ですかね。」
「そうか…。」
「…はい。…だから故郷から見る月も、ここから見る月も、同じなのかなって。
…あの月を通れば、帰ることも出来るんでしょうか。」
そう呟いた途端、伽羅さんが驚いたようにこちらを見た。
あれ、何か不味いことでも言ったかな…。
「お前…、帰りたい、のか?」
絞り出すように言った言葉を聞いて、納得する。
私が帰るということは、即ち主が変わってしまうということだ。また妙な奴でも派遣されたら、たまったものではないのだろう。
「あぁ、いや。
そうだな…。帰らなきゃ、とは思っています。
ただ、前程帰りたいとは思わなくなっています。」
「なら…。」
「帰り道は、いついかなる時でも探し続けますよ。それが私に課せられた義務ですから。
けれど、帰りたくないなぁ、と思う気持ちが強くて…。
本腰入れて探してはいないんです。」
「そう、か…。」
そう言って伽羅さんは少し息をついた。