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君に届くまで

第61章 主の弱さ




びっくりした…。



入って来たことすら気づかなかった。
自然と出て来そうになったため息を、咄嗟に呑み込んだ。

…何やってるんだ、私。しっかりしろよ。

「…すみません。ぼうっとしていて気づきませんでした。」

私がそう言うと、伽羅さんは何故か私の隣に腰掛けた。
何だろうと思って見ていると、

「…やる。」

小ぶりの瓢箪が突き出された。

「ありがとう、ございます。」

何だか前にもこんなことあったな、と思いながらも受け取った。
瓢箪の栓をきゅっぽんと開けて、一口含んでみると、

「辛い…。」

美味しいけど、辛かった。
これがこの人の好みなのだろう。

「…いらないなら寄越せ。」

隣から声がかかりそちらを向くと、不機嫌な顔があった。

「いや、貰います。」

折角貰ったのに返すもんか、と瓢箪を抱え込んだ。
それを見た伽羅さんは、黙って酒を呑み始めた。

私も、ちびりちびりと呑み、味を楽しむ。
酒って面白いな、と思う。
人により好みは違うし、土地によっても風合いが違う。
故郷の酒と比べるのも面白いだろうな、なんて思ってみたりもする。

私はまた空を見上げた。
今宵は見事な満月だ。

月って、当たり前のように浮かんでいるけど、もしかしたら世界によって違っていて当然だったりもするんだろうか。
そしたら、この月は元の世界には繋がっていないんだろうか。
何となく、前の世界と変わらないそれを見て、勝手にただ見る場所が違うだけだ、なんて思っていたけれど…。

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