第61章 主の弱さ
結局、レンは夕飯時にも顔を出さなかった。
何事もないかのように時間が過ぎていくことが、何だか気持ちが悪かった。
俺は早々に食事を切り上げ、万屋に向かう。
そこで瓢箪を2つ買うと、酒を入れてもらった。
帰り道、空を見上げると見事な満月が浮かんでいた。
歩く度に、からん、からん、と瓢箪の鈍い音がする。
慣れないことをしようとしているのはわかっている。
けれど、昼間のあの姿を見てしまっては、不安しかない。
放っておくことなど出来はしなかった。
俺は大きくため息をつくと家路を急いだ。
「…入るぞ。」
俺は物音一つしない部屋の襖を、断りなしに開ける。
レンは真っ暗な部屋の、窓辺の角に座って空を見上げたまま、微動だにしていない。
「レン。」
呼びかけて、そっと肩に手を当てると、びくりと体が大きく跳ねて勢いよく振り向いた。
大きく見開かれた目に、こちらも驚いた。