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君に届くまで

第61章 主の弱さ



「なぁ、光坊…。今日のあれは…、何だったんだ?」

全ての手入れが終わると、レンはしっかりした足取りで黙って出ていってしまった。
後片付けを光忠と五虎退でやっている。
あまりにもいつもと違うその様子に、他の奴等も声をかけられなかったらしい。

「あれは…。」

光忠は言い淀んだ。

「何か知っているのか?」

鶴丸が再び問うと光忠は俯いた。

知っているんだな。

「言え。レンのあれは、何だ?」

隠すな。

俺が少しの苛立ちの滲ませて問うと、光忠は小さく息を吐いて面を上げた。

「レンちゃんは…、血を見ることが出来ないんだ。」

「あ、主様は、怪我した人を酷く怖がるんです。」

「そう。瀕死の怪我は、特に。
兄弟の子を手にかけた時からずっと、そうなんだって。」

光忠と五虎退の言葉を聞いた俺達は息を呑んだ。

「…それで…。酷い顔をしていたのか…。」

三日月が苦い顔で呟いた。

言えばいいのに、と責め立てたくなる気持ちと、傷つけた、と己を責めたくなる気持ちとが、綯い交ぜになる。

「怪我を…、してこなければ。そうすればよかったのか?」

鶴丸が零した。
そういうことでもない、と俺は思う。
けれど、そう言いたくなる気持ちもわかった。
まるで、拒絶されたような気分だったからだ。

「…今は、そっとしておくしかないんだ。」

「だけど…!」

「落ち着けば…、また元に戻るよ。それから話をした方がいい。
今はいっぱいいっぱいで、まともに話が出来ないよ、きっと。」

光忠の言葉に、俺達は苦いものを抱えたまま手入れ部屋を後にした。
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