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君に届くまで

第61章 主の弱さ


近くで見て、やっとレンの様子が尋常じゃないことに気がついた。
瞳にはありありと恐怖が浮かび、体全体が小刻みに震えている。札を持つ手も覚束ない。

「レン…、お前…。」

俺の声に反応してこちらを向いた。
だが、俺を見ているようで見ていない。
瞳は頼りなく揺れているのに険が混じる。
怯えが見て取れると同時に、見る者をひやりとさせる。

俺は言葉が出なかった。
レンの視線が、ふいっと外れた。

レンは俺の体にそっと札を乗せ、神気を流した。
札が反応して俺の体に溶けて消えていく。
次いで恐る恐る俺の刀を鞘から引き抜いた。
ぼろぼろだったのだろうか。見る間にレンの眉間に皺が寄る。

レンは、刀を慎重に竈門の火に翳して水で清める。
そして、竈門で焼べた玉鋼を神気で埋めていく。

ゆっくりだが黙々と手を動かすその様子に、何故だか居た堪れなくなった。
俺は痛みを押して上体を起こした。

「レン…。レン、言え。何に怯えている。」

レンの腕をそっと取ると、ぴくりと体が震え、手が止まる。

「…血が…。苦手なだけです…。」

ぽつりと呟くと、また手を動かし始めた。



レンは、何も言葉を発しないまま、黙々と手入れをし続けた。
俺は手入れをする姿をじっと見ていた。
見ているしかなかった。
苦しんでいると分かっていてもどうすることも出来なかった。

小夜の手入れをしている最中、小夜が目を覚ました。

「…ご、めん…ね…。」

開口一番に、そう言ったのが耳に残った。
伸ばされた手をレンは両手で握り、首を横に振ったのも忘れられなかった。
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